見出しだけで広がる憶測と誤解
日本語能力の証明要件に 専門職在留資格「技人国」|47NEWS(よんななニュース)
今回話題になっている記事について、すでにさまざまな憶測が飛び交っています。しかしまず前提として、この情報は限られたソースに基づくものであり、内容をそのまま信じ込むべきではありません。その上で大切なのは、「書いてあることを正確に読むこと」と「その背景を知ること」です。
記事では、日本語能力の証明(B2レベル=N2相当)を求める方針が示されていますが、対象は「国外から新たに申請する人」に限られており、留学生からの在留資格変更は対象外であると明記されています。つまり、「技人国にN2が必要になる」といった見出しは、事実を過度に一般化したものであり、大きな誤解を招きかねません。
本当の変化は「日本語要件がなかったこと」
今回のポイントは「N2が必要になるかどうか」ではなく、「これまで明確な日本語要件がなかった」という点にあります。技術・人文知識・国際業務(いわゆる技人国)は、国外からの場合、大学卒業(または10年以上の実務経験)を満たせば申請できる在留資格であり、日本語能力は明確な条件ではありませんでした。
そのため企業にとっては、海外から直接採用できる、即時採用が可能であるといった利点があり、日本語要件がないこと自体が大きな特徴だったと言えます。(補足:技人国が日本語要件がないと言っても、実際には全く話せない人が採用されるケースはほとんどなく、母国でN5,N4まで勉強してくるケースがほとんどです。入り口は技能実習や特定技能のエージェントと同じであることが多いです)
制度と現場のズレ
一方で、制度と現場の間にはズレも存在していました。本来、技人国は専門的な知識や技術を要する業務に従事するための在留資格です。入管が示している定義にも、「理学、工学その他の自然科学や、法律学、経済学などの人文科学に属する知識を要する業務」と明確に書かれています。
しかし現実には、工場のライン作業やホテルの清掃など、本来想定されていない「現場系」の業務に従事するケースも一定数存在してきました。こうした運用は、制度の趣旨から見ればグレーな状態であり、ある種の「暗黙の了解」として続いてきたとも言えます。
今回の見直しの本質
今回の動きは、新しい制限というよりも、このズレを是正し、本来の制度の趣旨に近づけるための流れと捉えることができます。その中で、日本語能力という観点が加わり、「制度が適正化された」という側面が強いと言えるでしょう。
ここまでは、今回の記事で読み取れたところです
しかし、この制度変更が各方面に影響を及ぼすことは避けて通れません。
企業にとっての影響
企業にとっては、デメリットとメリットの両方があります。ここでは、企業を「現場系」と「オフィス系」の2つに分けて考えてみます。前者は人手を必要とする現場業務が中心の企業、後者は専門知識や言語を使う業務が中心の企業です。今回の制度変更は、この2つのタイプによって受ける影響が大きく異なるため、分けて整理することが重要です。
まず、今回是正の対象となっている現場系の領域については「コスト面」で大きな影響が出ます。技人国はこれまで、技能実習や特定技能に比べて審査が比較的通りやすく、日本語要件もなかったため、海外からの直接採用や即時採用が可能な制度でした。また、技能実習や特定技能のように多くの中間機関を介する必要がなく、時間や手数料の負担が少ない点も企業にとって大きなメリットでした。例えば特定技能では、1人あたり毎月数万円の費用が継続的に発生するケースもあります。今後、技人国から、技能実習や特定技能へ全振りすれば、経営への影響も無視できません。
これに対する対応策としては、政府側が制度ごとのコスト構造や運用実態を正確に把握し、企業に過度な負担がかからない仕組みを見直していくことが重要です。特に、特定技能や技能実習における中間機関の関与や継続的な費用については、制度の透明性や効率性の観点から再検討が求められます。こうした企業負担への配慮も合わせての制度改革が必要だと思います。
次にオフィス系の企業についてです。特に海外からの直接採用が多いIT業界では、プログラミング業務を中心に、日本語力がN3、場合によってはN4でも採用されてきた実態がありました。職場の共通言語は日本語であるものの、業務上は一定程度の言語力でも対応できていたためです。しかし、今後海外からの採用にN2レベルが求められるようになれば、こうした人材の流入は減少し、結果として優秀な人材が他国に流れていく可能性もあります。これはITに限らず、他の業種にも同様に影響が及ぶと考えられます。
一方で、N2レベルを基準にすることで、社内コミュニケーションが円滑になり、現場の負担が軽減されるというメリットもあります。実際に、日本語力が十分でないままオフィス業務に入ることで、周囲に大きなストレスがかかるケースも少なくありません。断言すると、職場でのコミュニケーションはN3レベルでは非常に厳しいです。現在は「日本語研修」という形で、継続的に学ぶ外国人社員が多いのですが、もちろんこれには多大な費用が掛かります。人数が少なくなってもより高いパフォーマンスを達成できるようになるという意味では、「量から質へ」という転換とも言えます。
また、これまで十分に注視されてこなかった選択肢として、日本の専門学校や大学を卒業した留学生を育成・採用する流れも強まるかもしれません。つまり、オフィス系の企業にとっては、海外から直接採用するだけでなく、国内で学んだ留学生を採用するという現実的な選択肢が改めて見直される可能性があります。
外国人にとっての選択
外国人側にとっては、進むルートがより明確になります。もし単純労働系の仕事を希望するのであれば、技能実習(N5レベル)や特定技能(N4レベル)といった制度も選択が可能です。もし、より安定した仕事や、大学での専門を生かしたいという場合は、日本語学習というリスクを取って、技人国を選ぶかもしれません。
ここで、大きな違いは「家族帯同」です。技人国では家族を呼び寄せることが可能ですが、技能実習や特定技能(1号)ではそれができません。また、将来長く日本に住みたい、つまり永住を望む場合には、技能実習や特性技能での滞在は年数はカウントされないという大きな違いがあります。つまり、同じ「働く」という選択でも、その後の人生設計に大きな違いが生まれます。個人の人生選択になりますが、この点を理解しないまま制度を選ぶと、後から大きなギャップや取り戻せないロスに直面することになります。
これまでエージェント任せで受け身だった外国人材やその家族が「選択する」「決定する」力をつけるための支援(自律支援)が必要になってくるかもしれません。
キャリアコンサルタント・日本語教師の役割は入国前の関わり
では、この変化の中で、日本語教師やキャリアコンサルタントは何をすべきでしょうか。ここでは「外国人社員」の支援に絞って提案します。
これまでのように「来日後に支援する」だけではなく、「来日前にキャリアと日本語を一体で考える支援」が求められるようになります。どんな仕事に就くのか、そのためにどのレベルの日本語が必要なのか。そこまで含めて支援する必要があります。まずは現地のエージェントや日本語教育関係者の教育が必要です。短期的な目標ではなく、長期的な影響も見据えての複数のビジネスプランを考えてもらう必要があります。その上での連携・協力が必要になってきます。
また、制度が複雑になるほど重要になるのが外国人材個人の意思決定の支援です。どの制度を選ぶのか、どの道を進むのか。その判断を支えるのは情報だけではなく、丁寧な対話です。だからこそ、日本語とキャリアを切り離さず、最初の一歩に関わる支援が、これからますます重要になると感じています。
試験に合格することがより重要な意味を持つ
最後に少々蛇足ではありますが、日本語教師の専門性という観点でも一つ触れておきたい点があります。それは、「試験に合格させる力」の重要性です。多くの日本語学校で、卒業する段階でN3レベルにとどまる学生が多い状況が報告されています。国籍の違いなどの考慮を差し引いても、今回の政府の決定を踏まえると、政府の意図とどこかズレていると言わざるを得ません。
また、日本国内だけでなく、海外の教育機関やエージェントと連携していく中では、「実際に試験に合格させることができる日本語教師」がより強く求められるようになるでしょう。N2レベルの日本語を持っているのと、N2に合格しているのとでは今後大きな違いがあります。「試験の合格=資格や権利取得」という事実を教育機関も日本語教師もしっかり認識する必要があります。
さいごに
たくさん考えなければならないことがありますが、その背後には大きなビジネスが動くことも忘れてはいけません。そしてそれは、決して他人事ではなく、自分自身にも関わってくるものです。

