「N1って必要ですか?」
留学生からよく聞かれる質問です。そのたびに、少し答えに迷うことがあります。というのも、よく言われるN1のメリットはどれも「相対的」だからです。たとえば、
・就職に有利になる
・日本語力の証明になる
・実力試しになる
どれも間違ってはいません。でも、よく考えてみると少し曖昧です。就職に「有利になることもある」けれど、N2でも採用される企業は多いですし、職種によってはN3でも問題ないケースもあります。実際、企業側が見ているのは「N1かどうか」よりも、「実際に仕事ができるかどうか」です。
つまり、「N1=絶対必要」ではない。だからこそ、多くの人が本気になりきれないのだと思います。
「絶対的な条件」が人を動かす
一方で、人が本気になるのは「絶対的な条件」があるときです。私自身、イギリスの大学院に進学する際に英語試験のスコア提出が必須でした。これは「取った方がいい」ではなく、「なければ進めない」ものです。だからこそ、迷う余地はありませんでした。では、N1にはそうした「絶対的な意味」はないのでしょうか。
実は、あまり知られていない形で存在しています。
あまり語られていないN1の価値
それが、在留資格:高度専門職と永住権です。
日本には、一定の条件を満たした外国人に対して優遇措置を与える「高度人材ポイント制度」があります。この制度では、合計70点以上を取得することで「高度専門職(1号)」の在留資格を得ることができます。
ポイント表
https://www.moj.go.jp/isa/content/930001655.pdf
評価項目は主に以下の通りです:
・学歴(博士・修士など)
・職歴(実務経験年数)
・年収(年齢に応じた基準)
・年齢(若いほど加点)
・日本語能力(N1:15点、N2:10点)
・研究実績・特許・論文など
・日本の大学卒業などの加点
これらを総合的に評価し、「点数」で判断されるのが大きな特徴です。ここで重要なのが、N1の位置づけです。N1を取得していると、明確に15点が加算されます。これは他の項目と比べても決して小さくない点数です。そして、このポイントが基準を超えることで、はじめて「高度専門職」という在留資格に到達します。
在留資格:高度専門職のメリット
では、「高度専門職」を取得すると何が変わるのでしょうか。
主なメリットは以下の通りです:
・複数の活動が可能(例:会社員+副業+研究など)
・配偶者の就労制限がなくなる(フルタイム勤務可)
・一定条件で親の帯同が可能(育児・出産支援)*ほかのビザにはない特徴
・家事使用人の帯同が可能
・入国・在留手続きが優先処理される
・永住申請までの期間が短縮される ★重要★
実は「(一時的ですが)親の帯同が可能」というのはほかのビザにはない大きな特徴で、これだけでもメリットが十分にあると考える人も多いくらい、重要なポイントです。しかしそれ以上に、最後の「永住申請までの期間短縮」という点は非常に大きく、70点以上で3年、80点以上で最短1年で永住申請が可能になります。
永住権がもたらす「本当の自由」
では、永住権を取得すると何が変わるのでしょうか。
一言で言うと、
人生の選択肢が大きく広がります。
・仕事の制限がなくなる
・転職やキャリアチェンジが自由になる
・起業がしやすくなる
・ビザ更新の不安がなくなる
・住宅ローンなどの信用が高まる
これらはすべて、「相対的なメリット」ではありません。状況に左右されない、「絶対的な変化」です。
N1は「試験」ではなく「戦略」
ここまで考えると、N1の見え方は大きく変わります。N1は、単なる日本語試験ではありません。就職のための資格でもありません。それは、
将来の選択肢を広げるための戦略の一部です。
もちろん、N1を取らなくても日本で働くことはできます。実際に、多くの人がそうしています。しかし、
「どこまで自由にキャリアを選びたいのか」
「どこまで日本での生活を安定させたいのか」
この問いに向き合ったとき、N1の意味は変わってきます。
知らないまま終わらせないために
多くの留学生は、この仕組みを知らないまま日本での進路を決めています。
「とりあえず就職できればいい」「N2があれば十分」それも一つの選択です。でももし、もう少し長い目で自分の将来を考えたとき、より大きな自由を手に入れたいと思うなら、N1は、改めて検討する価値のある選択肢です。
N1は「必要かどうか」で考えると、答えは人によって変わります。でも、「何のために取るのか」という視点で見たとき、そこにはこれまでとは違う意味が見えてくるかもしれません。
キャリアコンサルタントとして、在留資格による「制限」を伝えることは重要です。同時に、その先にある「メリット」や可能性を正しく伝え、それを一つの目標として描けるように支援することも、外国人向けキャリアコンサルタントの大切な役割だと考えています。

