外国では自分を相対評価している
外国で働く人、学ぶ人の相談に乗っていると、ある共通点に気づきます。それは、多くの人が自分で自分を相対評価し、自信を失っているということです。ネイティブのように話せない、ルールを理解できていない、ジョークが通じない、みんなに笑われている気がする
これらはすべて評価軸が常に“外側”にある。そして比較の中で、自分を減点し続けている。これが、相談者の中にある見えにくい壁です。
表面的には「問題がない」人たち
しかし、外から見るとどうでしょうか。
・N1を持っている
・安定した企業で働いている
・周囲からの評価も悪くない
・在留資格も問題ない
支援者がこの構造に気づかなければ、無意識にこう感じてしまうことがあります。
「こんなに良い環境なのに」
「N1もあるのに、何が問題なのだろう」
「気にしすぎだ」
けれど相談者が苦しんでいるのは、環境の問題ではありません。自分の存在価値が揺らいでいることなのです。私たちはこれを「アイデンティティの壁」と呼んでいます。
見えにくいが、看過できない壁
この壁は、誰もが一度は経験するものです。しかし、決して軽視できるものではありません。なぜなら、この壁が続くと、深い孤独感、慢性的な劣等感、自己否定の固定化につながるからです。
それが長期化すれば、抑うつ状態に陥ることもあります。心身のバランスを崩すこともあります。帰国を選ぶ人もいるかもしれません。さらに、これはあまり語られないことですが、外国にいた時の記憶そのものを、「思い出したくないもの」として封印してしまう人もいます。本来は挑戦であり、成長であり、誇りになるはずの経験が、「苦しかった記憶」として凍結されてしまう。これは非常に大きな損失です。なぜなら、その期間には必ず、その人の楽しい思い出や努力が詰まっているからです。
絶対的な自分とは何か
ここで重要なのは、「絶対的な自分」とは何かという定義です。語学力が完璧な自分でしょうか。誰よりも成果を出せる自分でしょうか。どこに行っても通用する肩書きを持つ自分でしょうか。私は違うと思っています。
絶対的な自分とは、“人の役に立てる自分を知っていること”です。
比較をしても揺らがない軸。それは、「私は誰かに価値を届けられる」という実感です。
私自身の体験
留学中の私は、自信を完全に失っていました。新卒から3年間勤めた仕事を辞めて渡英し、英語もうまく話せない。勉強も思うように進まない。料理すら満足に作れない。「何もできない自分」だと思っていました。
しかし生活の中で、人から感謝される瞬間が時々訪れて「え?こんなことで?」と思いながらも嬉しくなることがあったのです。それがだんだん重なることで見えてきたのは、留学前の仕事で身につけていた、ごく基本的な力でした。
一つは、人と人をつなぐこと。
私はとにかくいろいろな場所に顔を出していました。語学が完璧でなくても、とにかく関わる。その結果、自然と知り合いが増えていきました。
誰かが友人を探しているとき、アルバイト情報を知りたいとき、「その人、知っているよ」と紹介する。そんな小さな橋渡しを重ねるうちに、「何かあったらまずあなたに聞こう」と言われるようになりました。
もう一つは、パソコンスキルでした。
論文のフォーマットや、グラフの作り方、データの扱い方などに困っている人がいたとき、エクセルやワードなどの操作やデータベースの作り方を少し手伝いました。特別なことではありません。ただ、自分にできることをやっただけです。でも「助かった」と言われたとき、「こんなことでも役に立てるのだ」と感じました。
そして、ユーモア。
私は人を笑わせることが好きでした。完璧な英語ではなくても、少し場を和ませることはできる。「あなたがいると安心する」と言われることもありました。それは語学力ではなく、関係をつくる力だったのだと思います。
どれも大きな成果ではありません。けれど、役に立てていると実感できた瞬間、「無力な自分」という感覚が少しずつ薄れていきました。比較の中で揺れていた自分に、「それでもここで人の役に立っている」という感覚が戻ってきた。
ここに、私にとっての小さな絶対軸が生まれました。
キャリア支援における核心
アイデンティティの壁にぶつかっている相談者に必要なのは、スキルを身に着けることよりも、環境の改善よりも、「あなたはすでに役に立っている」という再認識です。
「あなたがいることで助かっている人は誰ですか?」
「あなたがいなくなったら困る人はいますか?」
「最近、何か人に感謝されたことはありますか?」
この問いが、絶対的な自分を取り戻す鍵になります。
最後に
外国で揺らぐのは、能力ではなく「自分の価値」です。だからこそ私たちは、環境だけではなく、その人の中の「アイデンティティの壁」に目を向ける必要もあると思っています。絶対的な自分とは、「自分は誰かの役に立てている」と思えること。その軸を一緒に見つけ直すことが、私たちキャリアコンサルタントの役割です。

