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【ブログ】キャリア相談には“段階”がある

―「転職したい」と言われたときに考えるべきこと―

日々、就職・転職・起業などに関するキャリア相談を受けています。中でも、留学生や外国人労働者からの相談は、文化や制度の違い、言語の壁も絡み合い、非常に多様で奥深い悩みが寄せられます。

しかし、どんな相談であっても、ある視点から見直すと、意外にも共通点があることに気づかされます。それは「悩みの深さや内容は、相談者が今どの段階にいるかによって大きく異なる」ということです。

今回は、特に「転職」の相談を例にとりながら、キャリア相談における“段階”について考えてみたいと思います。

■ 初期段階:何もわからない、でもなんとなく不安

「転職したいと思っているけれど、何から始めたらいいかわからない」という声をよく聞きます。これは、いわば“初期段階”の相談です。ここで感じている悩みは「漠然とした不安」です。

この段階の相談者は、転職を決意するまでの出来事(上司とのトラブル、体調不良、会社の将来性など)に気持ちが引っ張られていることが多く、必ずしも「転職に向かって前向きに動き出している」という状態ではありません。

つまり、「転職したい」という言葉の裏には、「今のままではダメな気がする」という違和感があるだけで、ゴール(理想の仕事や職場像)はまだ見えていないのです。

この段階で必要なのは、すぐに求人票を探すことではなく、自分の気持ちや価値観を整理する時間です。「本当にやりたいことは何か」「何が嫌だったのか」などを一緒に言語化することが、次の一歩を踏み出す土台になります。

■ 中期段階:進む方向が見えてきたからこその迷い

次に訪れるのが“中期段階”です。ここでは、「やりたい業界や職種がある程度見えてきた」「この会社に応募してみようかと思っている」といった相談が多くなります。

一見、順調に進んでいるようにも見えますが、この段階で新たな壁が現れます。それは、「具体的な不安」です。

「この会社、本当に自分に合っているのだろうか?」「この選択で後悔しないだろうか?」といった、自分の選択を疑う気持ち。現職より条件は良くなるかもしれないけれど、人間関係はどうか、社風は自分に合うか…など、考えれば考えるほど不安が募ってしまうのです。

この段階では、利点と欠点の両方を冷静に見つめる力が求められます。相談者の話を丁寧に聞きながら、その迷いが「情報不足」によるものなのか、それとも「覚悟が定まっていない」ことによるものなのかを一緒に見極めていくことが大切です。

■ 後期段階:現実的な課題と向き合うとき

そして最後が“後期段階”。ここでは、「内定が出た」「退職の意思を伝えた」「引っ越しの準備をしている」といった、転職の実行フェーズに入っている相談者が多くなります。

この時期の悩みは、「決まったあとのリアルな課題」に変わります。たとえば、退職時の引き継ぎでトラブルが起きたり、新しい環境にうまく馴染めるか不安になったり。家庭やパートナーとの調整が必要になることもあります。

「転職が決まれば、悩みはなくなる」と思われがちですが、実はこの段階で生まれる不安や葛藤こそが、最も“現実的”で、かつ深い悩みかもしれません。

ここでは、相談者に「一人じゃない」「今の不安は自然なことだ」と伝える安心感の提供が重要です。また、必要に応じてメンタル面や生活面の支援機関と連携する視点も必要になります。

■ 最後に:見極める力が、相談の質を決める

このように、一口に「転職したい」と言っても、その背景には全く異なる段階と悩みがあります。だからこそ、相談者の言葉を鵜呑みにせず、「この人はいま、どの段階にいるのか?」を見極める力が、キャリア相談では非常に重要になります。

段階を見誤れば、不必要な情報提供をしてしまったり、逆に背中を押すべきタイミングを逃したりするかもしれません。

悩みには“深さ”や“重さ”がありますが、を生それみ出しているのは、「ゴールまでの距離」と「心の準備の度合い」なのだと思います。キャリア相談の現場では、その両方に丁寧に寄り添いながら、伴走していく姿勢が求められます。