外国人の方を支援する現場にいると、よく耳にするのが「情報がどこにあるのかわからない」「同じことを何度もいろいろなところで聞かないといけない」という声です。これは、外国人本人だけでなく、支援者の中でも共有されている感覚です。実際、企業、大学、日本語学校、専門学校(また、それらを統括する機関)、行政、それぞれが独自に情報を持っていて、横につながっていないのが現状です。それが明らかになるのは、様々な支援者が集まる場で、支援者同士お互いに知らない情報が信じられないほど多く集まるからです。なぜ、こうした「情報の一元化」や「共有」が進みにくいのでしょうか。いくつかの背景を整理してみたいと思います。
目的の違いと縦割り
まず大きいのは、それぞれの組織が持つ目的の違いです。大学や専門学校は教育(特に知識や技術)、企業は人材確保、行政は制度運用や安全の確保、日本語学校は言語教育が主な役割です。つまり「自分たちの業務範囲で必要な情報」で見ているため、それ以外は対象外とされやすいのです。さらに日本社会特有の「縦割り構造」が加わり、横の連携をつくる仕組みがなかなか生まれません。そのため、情報はあっても“流れる道”が閉ざされがちなのです。
競合意識と情報の囲い込み
もう一つは競合意識です。例えば日本語学校や大学は学生募集で、企業は人材確保でお互いにライバルの関係にあります。「自分の持つ情報を公開すると不利になるかもしれない」という発想が働き、結果的に情報を囲い込む傾向が強まります。行政機関は本来それを公開して広く共有する立場ではありますが、民間企業と比べ情報の伝達(広報やマーケティング)には弱いという点を持っています。結果として囲い込んでいるように見えてしまうという事もあるかもしれません。こうした背景も、共有を難しくしている要因のひとつです。
人的リソースと専門性の不足
さらに現場レベルでは、「異業種と情報交換をする余裕がない」という問題があります。実際、現場での外国人支援には、教育、就労、ビザ、法務、メンタルヘルスといった幅広い専門性が求められますが、担当者がそれらすべてに精通していることは稀です。多くの場合、まず自分の職務をこなすだけで精一杯で、他機関との連携に割く時間や労力を持ちにくいのが現実です。これは私も教育機関に勤めていたこともあるのでよく理解できます。
外国人目線の欠如
さらに、外国人材に情報が届かない根本的な問題として、こうした情報提供を担う機関の中に当事者である外国人がほとんど含まれていないことが挙げられます。支援の仕組みをつくる会議やプロジェクトに、外国人自身の声が反映されていないのです。そのため、適切なプラットフォームが使われていなかったり、現場で本当に困っていることが見過ごされがちになります。外国人が本当に必要としている情報のキーワードが入らなければ、制度や情報はどうしても片側的なものになってしまいます。
やっているのに届かない
私が様々な現場で耳にするのは、「やってる感はあるけれど、実質的ではない」という声(批判)です。もちろん、各機関が努力し、本当に素晴らしい企画を立ち上げているのを間近で見てきました。だからこそ、そうした声を聞くのはとても不本意ですし、支援に携わる者として心苦しくもあります。けれども「情報が届いていない」現実があるのも事実です。長い間、問題意識はありながらも表立った対策が行われてこなかったことは、この課題がいかに根深いものであるかを示しています。
改善のきっかけになるのは・・・
外国人支援の情報がまとまらないのは、決して「やる気がないから」ではありません。目的の違いや組織の縦割り、互いの競争意識、人やお金の不足、利用者の立場に立てていないこと、そして支援を受ける外国人本人が議論の場にいないこと。こうした要素が複雑に重なっているからです。そのため、すぐに解決できる問題ではありません。
とはいえ、改善のきっかけはあります。一つは、各機関の担当者が集まって気軽に情報を交換できる、ゆるやかで続いていく場をつくること。これが広く情報を届ける仕組みにつながります。もう一つは、そのような場所に必ず外国籍の方を招き入れ、外国人当事者の視点を取り入れることです。制度や仕組みに彼らの声が反映されてこそ、取り組みが「やっているだけ」ではなく「本当に届く支援」に変わっていきます。
わたしは、それを可能にするのが「キャリアコンサルタントのネットワーク」だと思っています。教育、企業活動、行政に携わり、なお外国人の支援に本気で取り組もうとしている人たちが集まることで、新しい波が生まれることを感じています。実際に、今運営している「キャリアコンサルタントのための英語ロールプレイ会」では、様々な機関(教育、自治体、行政、企業)で、外国人材支援に携わる方々が参加していて、小さな情報交換の場ができています。参加された方が共有された情報を使って、実際の現場で相談者に伝えるというような循環ができています。ここでは「英語」という共通点で集まっていますが、キャリアコンサルタントがほかのキーワードで接点を持ち、たくさんの小さなコミュニティができていくことを願っています。
おわりに
大切なのは「完璧な仕組み」を一気に目指すのではなく、現場でできることを一歩ずつ積み重ねていくこと。その積み重ねが、いつしか大きな動きとなり、制度や社会の在り方そのものを変えていく力になると信じています。