· 

【ブログ】就職支援からキャリア支援へつなぐ小さな工夫

 

キャリア支援と就職支援の違い

私は留学生を中心に「キャリア支援」を行っています。よく「就職支援とどう違うのですか?」と聞かれるのですが、この二つは似ているようで、実は大きな違いがあります。大学などで、「就職課」を「キャリアセンター」と呼び、同義で扱われることもあるので、その定義は曖昧かもしれません。今日はその違いと、現場で感じる難しさについて書いてみたいと思います。

就職支援とは何か

まず就職支援ですが、これは目の前の「就職活動」を進めるための具体的なサポートです(と、私が定義しています)。履歴書やエントリーシートの書き方、面接対策、求人情報の提供など、短期的で成果が見えやすい支援です。ゴールは「内定」であり、そのための情報やノウハウを学生に渡すことが中心になります。もちろん、「自己分析」などより内面を探っていく過程も含まれますが、それはあくまでも内定を勝ち取るための「戦略」としての側面が強いと感じています。

キャリア支援とは何か

一方、キャリア支援はもっと長期的・根源的なものです。
「自分は何を大事にしたいのか」「どんな働き方が自分に合っているのか」「将来どんな人生を歩みたいのか」を考えることを支える営みです。

キャリアの授業でも「ライフキャリア/ワークキャリア」の区別、「内的キャリア/外的キャリア」などを扱っていますが、「就職」はキャリアのほんの一部であり、留学、結婚などもキャリアに含まれるし、また、給料や地位などの「外的」な要素だけでなく、やりがいや挑戦など、「内的」なことも含まれます。

結果として就職ではなく、大学院進学や母国でのキャリア形成を選ぶ人もいます。キャリア支援のゴールは「本人が納得できる道を選ぶこと」であり、内定そのものではありません。

留学生にとっての意味

留学生にとっては、この二つの違いが特に大きな意味を持ちます。就職支援だけに偏ると「とりあえず日本で就職しなければ」という焦りに駆られ、本当に望む道が見えなくなってしまうことがあります。しかし、多くの場合は一時的な感情に支配されていたり、周囲から影響を受けていたりして、日本就職が必ずしも自分の本意でないことも多いのです。それは本人も無意識なことなので、焦りばかりが募るという状況に陥りがちです。

私が関わった学生の中にも、日本での就職活動を進めていたけれど、深く話すうちに「やはり自国の教育分野で貢献したい」と気づいた人がいました。それが小さいころからの夢だったことを思い出したからです。また、大学院生と話していて、来日前に書いた「研究計画書」に、既に自分のキャリアを思い描いていたことを思い出し、そこから突破口を見つけた人もいました。彼らに必要だったのは、求人情報以上に「自分のキャリアをどう描くか」を過去を振り返りながら考える時間だったのです。

現場の制約とジレンマ

とはいえ、現実には大学のキャリアセンターなどで行うカウンセリングでは、時間の制約が大きいのも事実です。1回30分や40分の枠の中(短いところは20分!)で、しかも継続できるかどうかも分からない。どうしても「就職支援」、特に情報提供に偏ってしまいがちです。そもそも、留学生は情報を求めてやってくることがほとんどなのです。

カウンセラーが「キャリア支援」をしたいと思っても、それが難しいのが現状です。このことは、多くのキャリアコンサルタント資格を持つ人にとって小さな、時には非常に大きなジレンマになります。私自身も、「もっと個人の内側に迫りたい」と思いながら、制約の中で活動してきました。

小さな工夫でキャリア支援へ

しかし、まったくできないわけではありません。情報提供中心のカウンセリングでも、工夫次第でキャリア支援につなげることは可能です。その一つが「振り返り」の時間を入れることです。セッションの最後に5分でも3分でもいいので、今日の面談で得た情報を振り返ってもらうのです。

「どの情報が自分にとって大事だったか」「今日の話で気づいたことは何か」などを短く整理するだけで、学生は情報を自分ごととして受け止め始めます。キャリアは「自分自身しか決められないもの」と定義するならば、この振り返りは就職支援をキャリア支援に結びつける大切な一歩になります。

私はキャリアコンサルタントのほかに「学習アドバイザー」という資格を持っていますが、学習アドバイジングは特にこの「振り返り」に重点を置いていて、それこそが相談者の「自律性」を伸ばす大きなカギであることを説いています。
参考

リフレクティブ・ダイアローグ ―学習者オートノミーを育む言語学習アドバイジングamzn.asia
4,400(2025年09月25日 09:59時点 詳しくはこちら)
Amazon.co.jpで購入する

おわりに

キャリア支援と就職支援は、似ているようでゴールが異なります。就職支援は「内定獲得」、キャリア支援は「自分が納得できる人生の選択」です。現場では制約の中で就職支援に偏りがちですが、振り返りを取り入れるなどの小さな工夫で、就職支援をキャリア支援へとつなげることは可能です。
相談者が主役であることを忘れずに、彼らが望む人生に少しでも近づけるように、サポートしていきたいと思います。