【ブログ】業種が先か?職種が先か? ― 留学生にとってのキャリア選択

ケーススタディに見る“よくある迷い”

「トヨタで働きたい。なぜなら車が好きだから」
これは、私が授業で使ったケーススタディの一例です。実際の私の経験からヒントを得たものですが、一見すると明確な志望動機のように思えますが、面接で「どんな仕事をしたいですか?」と聞かれると、言葉に詰まってしまう。このような学生は面談で非常に多く見受けられます。

問題の原因は、業種・職種・会社という概念が頭の中でごちゃごちゃになっていることです。こういった混乱は、外国人に限ったことではありません。実際に私自身も、大学時代は同じような状況に陥っていました。会社名だけで進路を考えてしまい、その会社の中で自分が「何をしたいのか(できるのか)」という視点が抜け落ちてしまっているのです。


業種・職種・会社の違いとは?

キャリアの講義では、まず、言葉の定義を明確にするところから始めます。

  • 業種(Industry):企業が属する産業分野。例としては自動車業界、教育業界、観光業界、IT業界などがあり、「何を提供するか」という点で分類されます。

  • 会社(Company):法人として存在する具体的な組織。トヨタ、楽天、資生堂など、個別の企業名を指します。

  • 職種(Job Type):企業内で個人が担当する業務内容のこと。営業、エンジニア、広報、事務、人事、通訳などが該当します。

授業で取り上げた学生の例では、「トヨタで働きたい」という気持ちが先行しすぎて、「どんな業界で(業種)」「どんな仕事をしたいのか(職種)」という視点がすっぽり抜け落ちていました。

もちろん、スタートは企業名でもいいかもしれません。しかし「業種」や「職種」という考え方を知ることで、仕事選びの視野がぐっと広がります。「製造業というくくりでのほかの業種」「自分の興味に関連した様々な役割」と、自分に合った仕事を見つけやすくなるのです。


「業種」と「職種」は、どちらを先に

では、「業種」と「職種」は、どちらを先に考えれば良いのでしょうか?

結論から言えば、どちらが先でも間違いではありません
業種を先に考える人は、「この分野に関わりたい」という情熱や関心が強い人だと言えます。たとえば「教育の質を上げたい」「人々の健康を支えたい」「技術で社会を良くしたい」など。

一方、職種を先に考える人は、「自分のスキル」や「好きなこと・得意なこと」からキャリアを考えるタイプかもしれません。「人と話すのが好きだから営業が向いている」「大学で経営学を勉強したからアナリストになる」など。

どちらが正しいということではなく、自分の興味・関心や強みをもとに、どちらの入り口からでもキャリアは設計できます。


留学生は“職種の制限”に注意

ただし、ここで留学生には大切な前提条件があります。日本で就職する外国人留学生の多くが取得する在留資格は「技術・人文知識・国際業務(通称:技人国ビザ)」です。このビザには従事できる職種の範囲が法律で定められているという特徴があります。

  • 技術分野:理系専攻者向け。システムエンジニア、機械設計、建築、開発など、理系の知識や技術を生かす仕事などが該当。

  • 人文知識分野:文系専攻者向け。経営、経済、法学、社会学などの知識を使う仕事。営業、事務、マーケティング、商品企画などが該当。

  • 国際業務分野:語学力や出身国の知識や経験を生かした仕事。通訳・翻訳、海外営業、貿易実務、語学指導など。

つまり、どんな職種でも自由に選べるわけではなく、自分が大学で学んだことと関連性がある仕事でなければ、ビザ(在留資格のこと)が下りないという制約があります。これは、日本人学生との大きな違いです。


専攻と職種の関連性を意識する

例えば、人文系の留学生が「日本の医療に興味があるから病院で働きたい」と思っても、医療行為を行うような職種(医師、看護師、放射線技師など)は認められません。一方で、病院の事務職や外国人患者向けの通訳、マーケティングなどの業務には従事できる可能性があります。

このように、同じ会社・業界でも、自分の専攻に合った「職種(より正確な表現では「業務」)」を選ぶことが必要になります。留学生の就職活動では、この「専攻との関連性」が非常に重要なポイントです。(これも、知らない外国人留学生も多いのでしっかり伝える必要があります)


留学生には「業種 → 職種」の順番が自然

このような背景から、留学生にとってより自然なキャリア設計の順番は、
①まず業種を決める (→ ②企業を見つける)→③その企業の中で自分の専攻に合う職種を探す
というアプローチです。

具体例を挙げると、「観光業界に興味をもつ」→「複数の観光関連企業を見つける」→「各企業に自分ができそうな仕事(専攻に関連する仕事)があるか調べる」という流れです。

ただ、一見すると「業種を決める」「職種を選ぶ」というプロセスは単純そうに思えますが、その前提には必ず「自己分析」と「業界分析」が必要です。自己分析とは、「自分は何をしたいのか」「何ができるのか」「何を大切にしたいのか」といった、自分自身の価値観や強み・関心を深く理解する作業です。これがないと、業界や職種を選ぶ軸が定まりません。また業界分析では、「どんな業界があるのか」「自分の価値観やスキルに合う業界はどこか」といった視点から情報を集め、自分に合った業界を絞っていきます。

キャリアに関連することは一つ一つを単体でとらえず、全体の流れの中で考え、丁寧に一歩ずつ進めていくことが大切です。


さいごに

冒頭で紹介した「トヨタで働きたい」と話していた学生さんも、自己分析や業界分析といったステップを踏むことで、自分のキャリアをより具体的に、そして俯瞰的に捉えられるようになるはずです。

重要なのは、最初から正解を見つけることではなく、自分で考え、気づき、整理していくプロセスです。キャリアコンサルタントの役割も、特定の業種や職種を勧めることではなく、考えるためのフレームワークや視点を提供し、本人が納得できる選択をしていくサポートをすることだと考えています。